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【外資の視点】台湾における企業売却時に注意すべき5つの重要な法的論点

掲載日

2025/12/03

通常、M&A(合併・買収)の議論は買収側(バイサイド)のデューデリジェンス(Due Diligence)に集中しがちですが、外資系企業の売却側(セルサイド)としての目標は、「クリーン・エグジット(完全な撤退)」、「企業価値の最大化」、そして「クロージング後の賠償責任の回避」にあります。台湾の法規制環境下において、売却側となる外資系企業は、以下の5つの重要な領域における法的リスクと実務対応に特に留意する必要があります。

1. 政府認可と法規制のハードル (Regulatory Approvals)
台湾には外資の参入・撤退に対して明確な審査制度があり、これが取引スケジュールの遅延を招く主な要因となります。
(1) 経済部投資審議司(DIR)の許可:
  • 株式譲渡の承認: 既に台湾に進出している外資であっても、台湾子会社の株式を第三者(台湾企業、外資、中国大陸資本を問わず)に売却する場合、通常、経済部投資審議司(旧:投資審議委員会)への承認申請が必要です。
  • 買収側の属性(中国大陸資本): 潜在的な買収側が中国大陸資本(陸資)の背景を持つ場合、たとえ陸資投資許可リストにある項目であっても、審査は極めて厳格となり、却下される可能性もあります。売却側は、時間の浪費を避けるため、基本合意書(LOI)の段階で、買収側に対して最終受益者(UBO)の開示を求める必要があります。
(2) 公正取引委員会TFTC)への届出:
  • 売買双方の市場シェアまたは売上高が一定の基準に達する場合、企業結合の届出(結合申報)が必要です。売却側は、台湾の公平交易法(すなわち、その一部が日本の独占禁止法(Antitrust)に相当する法律)の問題により取引が阻止されるリスクを評価し、契約書において、承認が得られなかった場合の「ブレイクアップ・フィー(Break-up Fee:解約金)」の仕組みを明記しておく必要があります。

2. 労使問題と従業員の処遇 (Labor & Employment)
台湾の「労働基準法」は労働者保護規定が非常に厳格であり、これは外資系売却側が最もコストとリスクを過小評価しやすい領域です。
(1) 株式譲渡(Share Deal)対 資産譲渡(Asset Deal):
  • 株式譲渡: 法人格は変わらないため、原則として雇用関係は継続し、勤続年数の精算は不要です。ただし、経営幹部に関して「チェンジ・オブ・コントロール(Change of Control)」条項が発動するかどうかに注意が必要です。
  • 資産譲渡: 雇用関係の終了と再雇用を伴います。売却側は法に基づき退職金(旧制度/新制度の年金精算を含む)を支払う必要があり、買収側はどの従業員を「留用(継続雇用)」するかを選択する権利を持ちます。これは労使紛争やストライキを誘発しやすく、取引の進行に影響を与える可能性があります。
(2) 大量解雇労働者保護法:
  • 取引に伴い大規模な人員削減が行われる場合、売却側は60日前までに所管官庁に通報し、労働組合と協議する必要があります。手続きを遵守しない場合、罰金に加え、世論の反発を招き、当局の介入調査を引き起こし、取引スケジュールに影響を及ぼす可能性があります。

3. 税務の最適化と資金の還流 (Tax Implications & Repatriation)
外資系売却側の中核的な利益は、売却益を台湾から送金することにあり、税務スキームの構築が極めて重要です。
(1) 証券取引税(STT):
  • 取引対象が「株式会社」の発行する株式である場合、売却側は0.3%の証券取引税を納付する必要があります。
  • 対象が「有限会社」の出資持分である場合、証券取引税の対象外ですが、財産取引所得とみなされ、法人税(CIT)の課税対象となる可能性があります。
(2) 所得税と最低税負担制度(AMT):
  • 台湾に恒久的施設(PE)を持たない外資株主の場合、株式売却益(キャピタルゲイン)に対する所得税は原則として停止されていますが、最低税負担制度(AMT)の計算を考慮する必要があります。この計算は極めて複雑であり、外資親会社の登記地と台湾との間に租税条約(DTA)があるかどうかに基づいて判断する必要があります。
(3) 資金の海外送金(Repatriation):
  • 取引完了後の資金送金には中央銀行への申告が必要です。税務が未決済である場合、または投資審議司の承認書類が揃っていない場合、中央銀行により送金が保留されるリスクがあります。

4. 取引スキームと契約上の保護 (Structure & Contractual Protections)
売却側として、買収側からの事後的な損害賠償請求リスクを低減する必要があります。具体的な方法は以下の通りです。
(1) 表明保証(Reps & Warranties)の範囲:
  • 買収側は広範な保証(税務コンプライアンス、環境汚染の不存在、IP侵害の不存在など)を求めます。売却側は、「売主の知る限り(Knowledge Qualifier)」および「重要性(Materiality)」といった限定的な文言を極力挿入し、責任範囲を縮小すべきです。
(2) 補償の上限と期間(Indemnification Cap & Basket):
  • 補償金額の上限(Cap、例:取引額の一定割合)および免責額/補償開始基準額(Basket)を設定します。
  • 請求可能な期間(Survival Period)を設定します。通常、一般条項は1218ヶ月ですが、税務および環境条項については法定の時効期間に合わせる必要があります。
(3) 準拠法と紛争解決:
  • 準拠法は通常、対象会社の所在地法、または売主の親会社の本国の法律を主としますが、外資の売主は台湾の裁判所での訴訟を避ける傾向にあるため、売主の親会社の本社所在地国の裁判所、または中立的な仲裁機関(例:シンガポール国際仲裁センター<SIAC>)の利用を交渉し、公平性を確保することが考えられます。

5. デューデリジェンスへの準備 (Preparation for Due Diligence)
(1) ベンダー・デューデリジェンス報告書(Vendor DD):
  • 取引速度を上げるため、外資系売却側は事前に弁護士や会計士を雇い、Vendor DD報告書を作成することが可能です。これにより問題を能動的に開示し、解決策(例:未払い残業代の精算、未取得ライセンスの対応)を提示することで、買収側がDD過程で問題を発見し、それを理由に大幅な値下げ(Price Chip)を要求することを回避できます。
(2) 営業秘密の保護:
  • 成約が確定する前は、重要な顧客リストや核心技術(トレードシークレット)について、段階的な開示やクリーン・チーム(Clean Team)制度を設け、買収側が情報収集を目的として買収を装う事態を防ぐ必要があります。

【総括】
外資系売却側として台湾でM&Aを行う際、通常、「労働問題」は最も感情的コストが高く、「投資審議司の審査」や「公正取引委員会の結合審査」は最も時間的コストがかかり、「税務構造」は最終的な利益に直結します。

推奨される戦略は、市場で買い手を探す前に、まず内部の「健全性診断(Pre-sale restructuring)」を行い、潜在的なコンプライアンス、税務、労務などのリスク要因を整理・解消しておくことです。これにより、交渉力を大幅に高め、取引の確実性を向上させることができます。
 

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