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台湾における日系企業の就業規則(工作規則)策定に関する法的留意点と実務上の盲点

掲載日

2026/08/28

日系企業が台湾に支店、現地法人、その他の営業拠点を設立した後、従業員数の増加に伴い、台湾法上の「工作規則」(日本でいう就業規則)や人事労務管理制度を整備する必要が生じることがあります。しかし、台湾と日本との間には、労働法制、労働時間制度、休暇規定、解雇規制などの面で少なからぬ相違が存在します。

実務上、日系企業において特に注意すべき問題の一つが、日本の親会社における既存の就業規則や人事制度をそのまま中国語に翻訳し、台湾で使用するケースです。このような手法は一見効率的であるように思われますが、制度設計そのものが台湾の『労働基準法』その他の強行規定に適合せず、労使紛争やコンプライアンス上のリスクを招く可能性があります。

以下では、日系企業が台湾で工作規則(就業規則)を策定・改定するにあたり、特に留意すべきポイントを整理します。

一、従業員30人以上で就業規則の策定・届出が法的義務に

1.雇用する労働者数が30人以上となった場合、法に基づき就業規則を策定する義務
台湾の『労働基準法』第70条によれば、使用者が雇用する労働者数が30人以上となった場合、事業の性質に応じて就業規則を策定しなければなりません。
その内容には、労働時間、休憩、休日・休暇、賃金、時間外労働、勤怠管理、休暇の申請、賞罰、昇進、解雇、整理解雇(資遣)、退職、福利厚生、労働安全衛生などの事項を含める必要があります。
また、『労働基準法施行細則』第37条では、雇用する労働者数が30人に達した場合、使用者は直ちに就業規則を策定し、30日以内に所轄の主管機関に提出して核備を受けなければならないとされています。将来、法令改正、労使協議、管理制度の変更等により就業規則を改定する場合も、原則として同様の手続きを経る必要があります。
そのため、事業を急速に拡大している日系企業にとって、「現在はまだ30人未満である」ことは、就業規則や人事労務管理制度をまったく整備しなくてよい理由にはなりません。
実務管理の観点からも、従業員数が間もなく30人に達すると見込まれる場合には、事前に台湾の法令に準拠した制度を構築しておくことが望ましいでしょう。

2.核備後も法令に基づき周知・閲覧可能な状態にする必要がある
就業規則について主管機関の核備を受けた後、使用者は事業場内に掲示するとともに、労働者に周知し、実際にその内容を閲覧できる状態を確保する必要があります。
したがって、実務上は就業規則を社内サーバーに保存したり、人事部門のみで保管したりするだけではなく、従業員が実際にその内容を確認できるよう適切な周知・閲覧体制を整備することが重要です。
なお、「主管機関による核備」は、主管機関が就業規則の全条項について合法性を保証・認定したことを意味するものではありません。
『労働基準法』第71条に基づき、就業規則が法令の強行規定もしくは禁止規定、または当該事業に適用される労働協約の規定に違反する場合、その違反する部分は無効となります。
したがって、就業規則について主管機関の核備を受けたことが、将来における各条項の合法性を保証する絶対的な根拠となるわけではない点に注意が必要です。

二、労働時間制度は日本親会社の規定をそのまま適用できない

1.「固定残業代」は当然に違法ではないが、台湾法令への適合が必要
日本企業で広く採用されている「みなし残業」や「固定残業代」制度は、台湾において一律に禁止されているわけではありません。
しかし、会社が「毎月一定額を残業代として固定支給する」制度を採用する場合であっても、実際の支給額が労働者に法令上支払われるべき時間外労働手当を下回らないようにする必要があります。
実際の時間外労働に基づいて算定した法定の時間外労働手当が固定支給額を上回る場合、使用者はその差額を追加で支払わなければなりません。
したがって、就業規則に単に「毎月定額の残業手当○○元を支給し、これによりすべての時間外労働手当を含むものとする」と規定するだけでは十分ではありません。
固定残業代がカバーする時間数・範囲、計算方法、約定時間を超過した場合の精算方法などについて、明確に規定しておくことが重要です。
2.日本の「裁量労働制」は台湾にそのまま適用できない
これは、日系企業が特に誤解しやすい事項の一つです。
日本の労働法における「裁量労働制」と、台湾の『労働基準法』第84条の1に定められた制度は、その法的性質および適用要件が異なります。
「日本本社では管理職に裁量労働制を適用している」という理由だけで、台湾において一般的な労働時間や時間外労働手当の規定を適用除外とすることはできません。
台湾の『労働基準法』第84条の1は、中央主管機関が指定・公告する特定の業務に従事する労働者を対象とする制度です。
要件を満たす対象者については、労使双方が労働時間、休息、休日等について別途合意し、その内容を所轄の主管機関に提出して核備を受けることにより、通常の労働時間規制とは異なる取扱いが認められます。
したがって、肩書が「マネージャー」「課長」「部長」「Manager」であるというだけで、当然に第84条の1を適用できるわけではありません。

三、変形労働時間制の導入には適用要件と法定手続の遵守が不可欠

日系企業では、日本本社の勤務体系に合わせて完全週休2日制、シフト勤務、フレックスタイム制、あるいは一定期間に勤務日を集中させる勤務体系などを設定したいというニーズが生じることがあります。
しかし、台湾の変形労働時間制には、適用対象や導入手続について明確な法的要件が定められています。
例えば、変形労働時間制を導入する場合、原則として労働組合の同意が必要であり、労働組合がない事業場では労使会議の同意を得る必要があります。
さらに、4週および8週の変形労働時間制については、中央主管機関が指定した業種に限って適用することができます。
そのため、就業規則に単に「会社は変形労働時間制を実施することができる」と規定するだけでは、法律上要求される手続を代替することはできません。
また、制度の導入によって個々の労働者の所定労働時間、始業・終業時刻、休憩時間、休日の設定等に重大な変更が生じる場合には、労働契約との関係や、個々の労働者の同意が必要となるかについても、別途検討する必要があります。
就業規則の改定のみをもって、すべての勤務条件の変更を処理できるとは限りません。

四、割増賃金(残業代)の計算は台湾の法定基準に準拠する必要がある

台湾では、時間外労働に対する割増賃金について、法律上の具体的な算定基準が定められています。
例えば、平日の時間外労働が2時間以内の場合は、通常の1時間当たりの賃金額に3分の1以上を加算し、さらに2時間延長する場合には、通常の1時間当たりの賃金額に3分の2以上を加算して支給する必要があります。
そのため、日系企業が日本本社で採用している「固定残業代」「月間固定残業手当」その他の賃金計算方式をそのまま台湾に導入する場合には、それが台湾の『労働基準法』第24条その他の関連規定に適合しているかを改めて検証する必要があります。
また、「休息日」「例日(法定休日)」および「法定祝日(国定休日)」における休日勤務についても、それぞれ異なる賃金計算ルールが適用されるため、就業規則において個別に規定を設けることが望ましく、単一の「残業割増率」で一括して処理することは適切ではありません。

五、特別休暇制度は日本の年次有給休暇制度とは異なる

1.台湾の特別休暇は法定の段階的付与方式を採用
台湾の『労働基準法』第38条に基づき、勤続6か月以上1年未満の労働者には3日、1年以上2年未満の労働者には7日の特別休暇が付与されます。
その後も勤続年数に応じて付与日数が段階的に増加し、最長で年間30日まで付与されます。
これは、日本の年次有給休暇制度とは付与の時期や日数の算定方法が完全には一致しないため、日本の有給休暇規定をそのまま中国語に翻訳して台湾で使用することは避けるべきです。

2.特別休暇の取得時期は、原則として労働者が決定する
台湾法制の重要な特徴の一つは、特別休暇の取得時期を原則として労働者が決定する点にあります。
使用者は、事業運営上の急迫した必要がある場合、または労働者が個人的な事情により変更を求める場合には、労働者と協議して取得時期を調整することができます。
したがって、日系企業の就業規則に「特別休暇の取得には上長の承認を要する」または「会社は業務上の都合に基づき特別休暇の取得日を指定することができる」といった規定を設ける場合には、労働者が法令上有する特別休暇の取得に関する権利を実質的に制限していないか、慎重に検討する必要があります。

3.未消化の特別休暇については、原則として賃金の支払いが必要
労働者の特別休暇が年度終了または雇用契約の終了によって未消化となった場合、使用者は原則として未消化日数に応じた賃金を支払わなければなりません。
年度終了時には、労使間の協議により未消化分を翌年度へ繰り越すことも可能ですが、翌年度終了時または雇用契約終了時に依然として未消化である場合には、法令に基づき賃金を支払う必要があります。
そのため、就業規則に「期限を過ぎた特別休暇は消滅する」または「未消化の特別休暇について金銭補償を行わない」といった一律の失効条項を設けることは適切ではありません。

六、各種休暇制度は台湾法令に基づき再設計する必要がある

日系企業の親会社には通常、整備された日本の休暇制度がありますが、台湾拠点においては、『労工請假規則』および『性別平等工作法』などの関連法令に沿って、休暇制度を改めて検討する必要があります。
例えば、現行の『労工請假規則』では、入院していない場合の普通傷病休暇は、1年間に合計30日を超えることができません。また、この30日以内の普通傷病休暇については、原則として通常賃金の50%を支給する必要があります。
このほか、結婚休暇、忌引休暇、私用休暇、その他の法定休暇についても、それぞれ付与日数や有給・無給等に関する個別の規定があります。
したがって、日本本社の「私傷病による欠勤は原則として無給」「有給休暇の取得には会社の承認を要する」といった制度を台湾拠点にそのまま導入する場合には、まず台湾法令との整合性を確認する必要があります。

七、賞罰・人事考課・解雇制度には特に注意が必要

1.会社が就業規則によって恣意的に「罰金」を設けることはできない
日系企業の就業規則には、遅刻、早退、社内規定違反等に対する懲戒条項が設けられていることが一般的です。
しかし、台湾における使用者の懲戒権は、労働法令による一定の制約を受けます。
特に減給を懲戒手段とする場合には、「実際に労務を提供しなかった時間に対応する賃金を支払わない」というノーワーク・ノーペイの考え方と、「制裁として既に発生した賃金を控除・減額する」という懲戒上の減給を区別する必要があります。
そのため、単に「規定違反があった場合には一律に減給する」といった包括的な規定を設けることには注意が必要です。
さらに、使用者は、違約金や損害賠償金等の名目で労働者の賃金をあらかじめ控除することもできません。
懲戒制度を設計する際には、『労働基準法』の強行規定に抵触しないよう、具体的な懲戒事由、処分の種類および手続を明確に定めることが重要です。

2.「人事考課が不良」であることのみを理由として当然に解雇できるわけではない
台湾の解雇制度は日本と同様に一定の法的制約を受けますが、具体的な制度および法的要件には大きな違いがあります。
使用者が『労働基準法』第11条に基づく整理解雇(資遣)、または第12条に基づく懲戒解雇を行う場合には、それぞれの法定事由を満たす必要があります。
したがって、日系企業の就業規則に「人事評価が2年連続で不合格の場合、会社は解雇することができる」と規定したとしても、それだけで会社が当然に適法な解雇を行えるわけではありません。
特に第11条第5号の「労働者がその従事する業務を遂行することができない」旨の事由を適用する場合には、具体的な事実関係、改善の機会の付与、指導・教育措置、配置転換等の代替手段を検討したかどうかなどが重要となります。
また、解雇については、解雇が最終的な手段であるとの原則にも留意する必要があります。
12条に基づく懲戒解雇についても、具体的な法定事由に加え、解雇事由を知った日から30日以内に解雇する必要がある等、法定の期間およびその他の要件を遵守しなければなりません。
したがって、就業規則における「重大な違反」「情状が重大」「職務不適格」などの抽象的な表現については、将来の労使紛争リスクを低減するため、具体的かつ客観的な判断基準を併せて定めておくことが望ましいでしょう。

八、日本語版の就業規則は、台湾法上の中国語版の代わりにはならない

日系企業の実務では、日本人経営陣および台湾人従業員の双方が就業規則を理解できるよう、中国語版と日本語版のバイリンガルで就業規則を作成するケースが多く見られます。
このようなバイリンガル運用自体には問題がなく、むしろ社内コミュニケーションの円滑化や、日本人管理職による制度理解に資するものです。
ただし、以下の点には注意が必要です。
台湾の主管機関への提出・核備については、台湾法令の要件を満たした中国語版の就業規則を基準として行うことが適切です。
日本語版については、社内管理および日本人経営陣・管理職・従業員の理解を促進するための参考訳として位置付けることが望ましいでしょう。
また、社内で中国語版と日本語版を併用する場合には、両言語版の文言に相違が生じた場合の取扱いについて、あらかじめ明確にしておくことが推奨されます。
例えば、「主管機関に提出し、核備を受けた中国語版を優先する」といった規定を設けることが考えられます。
同時に、「中国語版を主管機関に提出して核備を受けているものの、実際の社内運用は日本語版に基づいて行っている」という事態は避けるべきです。
中国語版の就業規則自体に問題がなくても、実際の労務管理や運用が台湾法令に適合していなければ、労使紛争や法令違反の問題につながる可能性があります。

九、日系企業における就業規則策定の要諦は「翻訳」ではなく「ローカライズ」

日系企業が台湾拠点の就業規則を策定する際の最大のリスクは、台湾の法律をまったく知らないことではなく、「日本本社の既存制度に過度に依存してしまうこと」にあります。
例えば、
  • 日本の「裁量労働制」は、台湾の『労働基準法』第84条の1と同義ではない。
  • 日本の「みなし残業」は、台湾の固定残業代制度とそのまま同一視することはできない。
  • 日本の「年次有給休暇」制度は、台湾の「特別休暇」制度をそのまま代替するものではない。
  • 日本企業における人事考課、懲戒、解雇に関するルールは、台湾の『労働基準法』に基づく法定の解雇制度をそのまま代替するものではない。
  • 日本本社が定めた日本語の就業規則は、台湾法に基づいて策定・核備・周知されるべき就業規則の代用にはならない。

したがって、台湾で事業を展開する日系企業にとって望ましいアプローチは、日本親会社の就業規則を単に中国語に翻訳することではありません。
台湾の『労働基準法』その他の関連労働法令をベースとして、労働時間、賃金、休日・休暇、各種休暇の申請手続、勤怠管理、賞罰、人事評価、解雇、退職等の制度を改めて検討し、その上で日本企業の企業文化や管理理念を適切に融合させていくことが重要です。
優れた就業規則とは、単に「主管機関の核備を受けた」文書にとどまるものではありません。

それは、日常の人事労務管理を円滑にし、管理職と従業員との間の認識を統一し、労使トラブルを未然に防ぐための、実効性ある制度インフラとして機能するものであるべきです。
 

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